トヨタが導入する新人事制度

トヨタの新制度

働き方改革一体法案の審議は恐らく来年の通常国会にずれ込みそうですが、一昨日の報道でトヨタ自動車の労組が、会社が提案する新人事制度を承認したとありました。

マスコミの報道ではトヨタ自動車が導入する新しい裁量労働制と伝えることが多いのですが、かなりニュアンスが違うと思うので誤解に無いように整理したいと思います。

トヨタ自動車が導入しようとしているのは裁量労働制ではなく新たな固定残業制を主体にした制度です。
裁量労働制を新たに導入しようとしている訳ではありません

トヨタ自動車が現行で採用している裁量労働制は、専門業務型裁量労働制や企画業務型裁量労働制というものです。

これらは労働基準法に規定されているもので、労使間並びに行政との間で一定の手続きを置こうことを前提に、仕事の進め方を大幅に労働者に任せる一方で、一日当たりの労働時間を実労働時間ではなく、みなし労働時間にて行うものです。

専門業務型については、研究開発やシステムエンジニアなど摘要される業務が限定されており、労使協定にてよって定めていきます。

企画業務型については企画立案などの業務を行う労働者を対象にしているものですが、専門業務型よりもより厳格な運用が求められ、労使委員会にて決定し運用をしていきます。

労働時間に関しては、現実には何時間働いても、労使協定や労使委員会の決議で定められた時間を労働時間としてみなし、賃金を支払うことにしています。

いずれの制度についても、労働時間の長さではなく、労働の質や成果によって評価をし賃金を支払うことが可能になっています。

賃金の支払い関しては固定的であるので管理が楽である一方で、対象となる業務が限定的で、適用するための手続きが複雑であり、健康管理にも一定の負担が掛かるなど、使いづらい制度となっていますので、一般的にもあまり普及していません。

トヨタ自動車では現行の制度でみなし労働時間を一日9時間とし、その時間にみあった手当を支給しています。

裁量労働制の対象者は1700人ですので、新制度で考える対象者7800人とはかなりの開きがあることは、非常に使いにくい制度であることを表しているとも言えます。

 

一方の新制度ですが、法律が新しくなったから導入する訳ではありません。

労働時間は自分の裁量で決める、とありますが、時間管理をしない訳ではありません。
むしろ時間管理は厳格に行うことが前提でしょう。

ここが恐らく誤解の元かと思います。

 

実態としては日々の労働時間についてはお任せするから、一月の残業時間は45時間を上限にしてくださいよ、といったものになっています。

この制度の特徴は、一月45時間以内であれば、仮に20時間の残業であったとしても、45時間の残業手当は保障する、というものです。

一方で実際の残業時間が45時間を超えた場合には、その超えた分に対しては別途残業代を支払うという制度です。

これを評して、法律とは別の独自な脱時間給制度と表現する報道がありましたが、非常に単純な定額残業代であると言えます。

労働時間を裁量で決められるという辺りは恐らく上司の承認なしに、自由に労働時間を決定できるというものでしょう。

この制度の適用を受けた人が、45時間を超えたからと言って超過分を請求するか、しないか、については、分かりませんね。

でも超過分の支給についてもし行われなかったとしたら、制度自体の適法性の問題にもなるので、キチンと運用されるものと思います。

働く側のメリットについては年休取得の日数も含め、非常に多いものと思いますが、企業にとってもメリットはなんでしょう?

一般的に考える固定残業代導入のメリットからすれば、同じ賃金を得るために、沢山働くよりも少ない時間で働こうとする人を増やすことが出来るでしょう。

効率よく働こうとして生産性が上がること、
言われて仕事をするのではなく、自主的に仕事の有り方を工夫しようとする人が増えること、
などを会社側としては期待するのではないでしょうか。

未払い残業代請求の裁判の世界では、固定残業制は否定されることが多くなっていますので、導入の主旨と相まって、この制度がトヨタ自動車からどのように広まっていくのかを、今後も注目したいと思います。

 

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