
今通常国会が行われていますが、岸田総理の年頭の記者会見や所信表明演説では異次元の少子化対策を最重要課題として取り上げています。
なかなか想像しにくい「異次元の少子化対策」ですが、昨年12月16日に公表された全世代型社会保障構築会議の報告書を読むと、その中身が浮かび上がります。
政府は新たな会議を立ち上げて、3月末までに少子化対策のたたき台をまとめ上げ、6月に策定される「骨太方針2023」に反映させる方向性だと思います。
会議のたたき台としても骨太方針の中身としても、この全世代型社会保障構築会議の報告書がベースになることは間違いないでしょう。
それだけに今後の少子化対策を図る意味でこの報告書の持つ意味は重要で、これからの労務管理の方向性としても見逃せない内容となっています。
報告書はタイトルで「~全世代で支え合い、人口減少・超高齢社会の課題を克服する~」としています。
冒頭の図はセミナーで良く紹介するものですが、昭和の働き方では夫婦で共働きする割合は低かったのが、今や共働き世帯が圧倒的多数になっていることが分かると思います。
昭和の時代から令和の新しい働き方を考えていくことが、異次元の少子化対策につながります。
報告書の基本的な考え方として、これからも続く「超高齢社会」に備えるために「働き方に中立的な社会保障制度を構築し、労働力を確保する」としていますので、記載している内容をそのまま転載します。
具体的には、第一に、超高齢社会にあって、経済社会の支え手となる労働力を確保する必要がある。
この点で、女性や高齢者の就労を最大限に促進し、その能力発揮を実現することが必要であり、誰もが安心して希望どおり働けるようにしていくことが目標となる。
このためには、雇用や働き方に対して歪みをもたらすことのない「中立的」な社会保障制度の構築を進め、制度の包摂性を高めることで、女性や高齢者をはじめ誰もが安心して希望どおり働き、活躍できる社会を実現していく必要がある。
また、子育て支援や健康寿命延伸、介護サービスに係る社会保障の充実は、女性や高齢者の就労を促進し、介護離職を減らすなど、支え手を増やす上でも重要となる。
報告書では上記について取り組むべき課題として下記を取り上げています。
①勤労者皆保険の実現に向けた取組
短時間労働者への被用者保険の適用に関する企業規模要件の撤廃
個人事業所の非適用業種の解消
週労働時間20時間未満の短時間労働者への適用拡大
フリーランス・ギグワーカーについて
デジタル技術の活用
女性の就労の制約と指摘される制度等について
② 労働市場や雇用の在り方の見直し
非正規雇用労働者を取り巻く課題の解決
労働移動の円滑化
続いて内容として重複するのですが、今後の改革の工程として取り上げているのは以下の内容になります。
①勤労者皆保険の実現に向けた取組として、
次期年金制度改正に向けて検討・実施すべき項目に挙げているのは下記になります。
短時間労働者への被用者保険の適用拡大(企業規模要件の撤廃など)
常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消
週所定労働時間20時間未満の労働者、常時5人未満を使用する個人事業所への被用者保険の適用拡大
フリーランス・ギグワーカーの社会保険の適用の在り方の整理
これを見ると、昨年10月から101人以上に引き下げられた短時間労働者の適用拡大については、かなり早い段階で規模要件が撤廃になると考えられます。
それだけではなく、個人事業においても全ての規模で社会保険に強制加入なるとしていますし、週20時間未満で働く労働者であっても社会保険に加入するとしています。
さらに労働者ではない、フリーランスやギグワーカーといった労働者性が認められない働き方についても、社会保険に加入する道筋を図るようです。
またダブルワークに関しても労働時間を合算すれば週20時間を超える場合には社会保険へ加入させることも盛り込まれています。
働く人すべてが、社会保険の適用を受ける→→→全ての労働者が厚生年金に加入する
という方向付けが出されています。
さらに工程には無いのですが、被扶養配偶者の年収上限130万円の問題や在職老齢年金など働きたくても働けないような制約が有ることに対して、、社会保障制度や税制等についても、制度を改めていくことが盛り込まれていることは非常に重要です。
個人的には働きたい人間が働けなくなるような在職老齢年金制度は撤廃して欲しいと願います。
②労働市場や雇用の在り方の見直しとして、速やかに検討・実施すべき事項は下記になります。
「同一労働同一賃金ガイドライン」等の効果検証・必要な見直し
「無期転換ルール」の実効性を更に高めるための見直し
「多様な正社員」の拡充に向けた普及・促進策
非正規雇用労働者の待遇改善や経験者採用(中途採用)に関する取組状況について、企業による非財務情報の開示対象とすることを含めた、企業の取組の促進策
その他、「労働移動円滑化に向けた指針」の策定をはじめ、「構造的な賃上げ」につながる労働移動円滑化・「人への投資」への支援の着実な実行
同一労働同一賃金については、法施行後5年でガイドラインを見直すとされています。
この報告書でも見直しについて触れていますが、徐々に同一労働同一賃金が実行段階に入ってくることを予見されます。
次のガイドラインが出る頃が、本当の同一労働同一賃金のスタートになるかもしれません。
無期転換ルールは施行開始から今春で10年を経過しますが、実効性を高めるための方策が謳われています。
この点に関しては別の報告書が年末に出ていますので、次回のコラムで触れたいと考えます。
多様な正社員に関しては「勤務地を限定する」制度について触れられています。
今後具体的な方策が出されていくものと思います。
以上のことから「働き方改革は終わらない」ということをこの報告書が提言していると受け取りました。
今後どんどん働き方改革が続いていくことになります。
労働時間の上限規制や年次有給休暇の年5日取得への対応が遅れていくと、次の改革に対応できなくなることが懸念されます。
次の改革が行われる前に、今の改革についてしっかりと対応できるようにしていきましょう。
荒木康之

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